3Dプリンタ用防火エンクロージャーを作る


このエンクロージャーを作る利点

・防火

・静音化

・印刷安定

・臭い拡散防止 


3Dプリンタと火災

火災は嫌じゃ

どっから火が出るか

■大電流を扱う電線やそのコネクタ

3Dプリンターは24Vという低い電圧で動いている

同じワット数の電気負荷を扱う場合、電圧が低ければ低いほど大電流になる

コネクタは施工不良だったりコネクタが緩んだりして発生する

電線は動く部分で徐々に断線して経路が細くなるとそこから発熱、発火する

銀紙と乾電池で火をおこすアレをイメージするとわかりやすい

 ・電源からザーボードの電線やコネクタ

ここは3Dプリンターで一番電流の多い電線

マザーボードのターミナルブロックから発火、マザーボードを3Dプリンターで印刷した樹脂ケースに入れていたため燃え移った事例あり

防火の観点から言えばPRUSAみたいなマザーボードケースは良くない

 ・マザーボードからヒートベッドヒーターへの電線やコネクタ

ヒートベッドは3Dプリンターで一番消費電力の大きいパーツ

接続される電線は常に動くので電源ラインより断線しやすい

ヒーター関連はMOSFETがぶっ壊れると常に最大出力で加熱し続ける暴走状態になる

(俺のプリンタでも実際に発生した)

プリンタファームウェアがエラーを検出してもプリンタ自身には電源を遮断する能力が無い

 ・マザーボードからノズルヒーターへの電線やコネクタ

ノズルヒーター直近で出火してホットエンド周りの樹脂パーツや印刷失敗時のモジャモジャに燃え移った事例あり

ホットエンド周りの純正パーツがアルミ板金で出来ている事が多いがあれは防火的に良い

■電源本体内部が燃える

格安3Dプリンターメーカーが安い電源をいくらでも採用できるにもかかわらずあえてMEAN WELL電源を採用するのは、それだけ電源が燃えやすいからだと俺は思っている(保証してくれる大きいメーカーの部品を採用する方が得という判断)

電源の筐体を樹脂パーツで改造するのは火災リスクがある

対策案

・印刷中は家に居て、プリンタ部屋に消火器を用意する

実も蓋もない

理想はこれだけどプリンタ起動したまま外出や出勤したい

・Marlinのエラーを検知して電源遮断できるリレーとかOctoPrintから直接叩けるスマートコンセントを導入する

ヒーターの暴走対策にやったほうがいいけどそれしか防げない

・エンクロージャで覆って感知器連動で消火剤をぶちまける

本番で確実に動作させるには定期メンテなどが必要

既製品で信頼性の高い感知器が手に入るが消火剤噴霧は自作しないといけない

エンクロージャの中は高温になるので電子機器にしろ機械式にしろ課題が多い

(co2インフレーターが爆発した画像をみて震える)

・燃える前提で不燃材のエンクロージャを使う

これメンス

素材はどうするか

金属製

・事務什器メーカーや物置メーカーが500とか600寸法のロッカーを作っているのでそれを買う

プリンタの動作音は大きくなりそう

値段が高い

寸法の融通が聞かない

・アルミの縞板で箱を作る

かっこいい

寸法特注で安くて6万+送料ぐらいする、自作しても4万じゃきかない

自作は加工場所の確保が出来ない

建築用不燃素材

・鉄筋コンクリート

重いし穴あけが困難

・ガラス

温度変化で割れるし作るのが大変

・石膏ボード

音もしっかりカットして、炎も熱もシャットアウト!


とても安い

加工性がいい

水に弱い(用途的には問題ない)

石膏ボードだけで箱は作れない

・ケイカル板

とても安い

石膏ボードより薄い

石膏ボード同様ケイカル板だけで箱は作れない

粉が出る


妥協案

木材で箱を作り内側にケイカル板を貼ることに決めた

接炎耐性はバリバリに強い

エンクロージャの気密性をもって酸素供給を減らし自己消火に期待する

テスト時の様子
3.2kwトーチの炎でガンガンに炙ってみた
これだけ燃焼発熱速度の速い炎でもケイカル板で防御している部分は完全に防いでいる
継ぎ目の隙間からは炎が通って木を焦がしているのでアルミテープなどで塞ぐ必要がありそうだ

炙り動画(3倍速)

製作

3D CADで簡単に図面引いて

板材はホームセンターでカット購入するのでカット指定用の平面図を作っておくと良い

島忠ホームズでOSB11mmをカット購入

OSBは塗装不要で使える利点がある

島忠ではケイカル板のカットは非対応だったので、ケイカル版はビバホームでカット購入した


インパクトドライバで下穴とビス打ちして

箱っぽくなる

難燃性用接着剤でケイカル板を貼る

照明を付けたらそれっぽくなる


床面は防火的にそれほど重要では無いのでケイカル板ではなく後日アルミ板を貼ることにした

印刷の監視はWEBカメラで行う

あとは片折ヒンジとコーナーパチン錠で扉を作れば基本的なエンクロージャーは完成する



材料費1万5000円ぐらい

通線用の穴を開けてプリンタを設置しよう

通線用の穴にはエアコンパテを詰めるのを忘れずに

追加施工

フィラメントは内部に収納したい

フィラメントホルダーはホームセンターで吊りボルト用アンカーのコーナーに

ちょうどいいものが売っていたのでそれを利用する

台座部分と棒部分で合わせて250円ぐらいだった気がする


補助ヒーターも付けたいので温度計付きサーモスタットを用意する

サーモスタットのメカニカルリレーはカチカチうるさいので取り外した

外部のソリッドステートリレーが使えるようにリレー動作電源の線をターミナルに取り出し

これらをタカチのメタルボックスに収めた

ハンドニブラで雑に開口して

悪くない見栄えになる

サーモスタットの電線は露出で取り回して
側面に電源コンセントとサーモスタットでオンオフするリレーコンセントを設置

プリンタ用の電源も箱側面に設置

ヒーターとフィラメントホルダーと補助ヒーターを設置

庫内内側はアルミテープで覆った
床面は0.6mmのアルミ板を貼った
ケイカルの粉が出ないように、火炎が隙間に入り込まないように

フィラメントがリール横からバラバラこぼれるのでABSでフィラメントガイドを印刷して設置

補助ヒーターはフレームを直接加熱しないように壁に向けて金具で固定

使用したヒーターは300Wのセラミックヒーター

TEKNOS モバイルセラミックヒーター グリーン TS-310


そのまま密閉空間で使うとヒーターのバイメタル(安全装置)が動作してしまうので
バイメタルは取り外してしまう
転倒防止用のスイッチも同様に無効にする
温度ヒューズは取り外さない


もし今後温度ヒューズが動作した場合は既製品を使わず
ヒーターを買って自作しようと思う
換気用にシャッター付きの通気口(これをレジスターというらしい)を買ってきた
金属製で不燃にこだわる
穴を開けて差しこむだけ
下が吸気で上が排気

排気側にはフィルター付きの強制排気ファンを取り付けた
サーモスタットで排気による庫内温度コントロールしようと思ったが、換気による庫内温度の冷却がプリンタからの発熱を下回る能力だったのでサーモスタットつけても意味がないことに気づいた
普通にスイッチで連続運転させるしかない

箱の中身

カーエアコンのフィルターを切って

蓋をするだけ

エアフィルターは庫内から出る排気を脱臭する目的で設置したが、使われる活性炭の絶対量が少なすぎ
ホコリを取りたいわけじゃないのでエアフィルターじゃなくて砂利サイズに砕いた活性炭を詰めるような構造にすればよかった
今の所は印刷中に臭いが気になったり気持ち悪くならないのでしばらくはこれで様子見する
(ABSの射出成形工場でバイトしてゲロ気持ち悪くなったり、ハンダ作業が長引くとゲロ気持ち悪くなるから臭いに鈍感なわけじゃないと思う)

今後やりたいこと

プリンタマザーボードの外付け化
追記・訂正:庫内温度60℃で脱調しないし別にいいかって思ってきた
マザーボード外付けにするとエンクロージャーからプリンターを取り出したり設置したり、機種交換やメンテがクッソ面倒になるしね

エンクロージャーでの印刷テスト

Q.いい感じ?
ABSが反らずに割れずに印刷できた
動作音がカットされて静かだし本当に造形が安定する
エンクロージャは調子いいんだけどプリンタ側でヒートクリープが発生しだしたのでプリンタの改修が終わるまでまともに使えない
執筆時現在十分にテストできてn

Q.最高温度は?
運転中のプリンターの発熱だけで庫内温度60℃まで上がる
補助ヒーター焚いて頑張れば100℃まで行けるんじゃない?
でも庫内温度上げすぎるとモーターやヒートブレイクの水冷化が必要になるので50℃ぐらいで使いたい

Q.問題点は?

・高温環境時にフレームが膨張して寸法精度に影響が出てる気がする

・印刷している間は庫内温度は緩やかに上昇し続ける
冷却用のサーモスタット付けて換気ファンを増設すれば制御できるんだけど防火の観点から絶対やりたくない
初期レイヤーでヒートベッドを切ると早すぎて底面が反るので1時間後に切れるような回路を増設しようか検討している

追記・訂正:庫内温度は60℃ぐらいで落ち着くのでそれほど問題ではない
絶対やりたくないと言っていた換気は考えが変わって結局設置した
庫内の可燃物はせいぜい1kgのプラスチックだけなので耐えられんべ


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